MOTTAINAIキャンペーンが20周年を迎えたのに際し、キャンペーンの提唱者、ワンガリ・マータイさん（1940～2011）の薫陶を受け、現在、国際協力機構（JICA）森林政策の専門家として、アフリカ最大の熱帯林地帯「コンゴ盆地」の保全に取り組んでいる大仲幸作さんにマータイさんとの関わりや思いを寄稿してもらいました。

マータイさんとの交流は、2007年に私がケニアの日本大使館に環境担当として派遣された時に始まりました。彼女はすでに日本でもよく知られた存在で、ケニアを訪問する日本の要人は、彼女との会談を大使館に決まって要望してきました。日本で「環境」や「アフリカ開発」をテーマとしたイベントが開催される時も、彼女は基調講演など重要な役割を担いました。私はケニアではマータイさんと日本の要人との会談や関連イベントのアレンジのほか、マータイさんが訪日する際にはスピーチ原稿のチェック、面談候補者の選定、日本へのお土産の準備まで……。大使館員の仕事を多少？　逸脱して、日本と彼女との関係強化に努めました。

彼女は史上最強の環境インフルエンサーでした。天皇、皇后両陛下との懇談や総理大臣との会談も瞬く間に実現しました。環境活動家としての気骨の精神とアフリカ人特有の人懐っこさ、そんな相反する魅力あふれる彼女のキャラクターは多くの日本人の心を魅了しました。 そして、ノーベル賞受賞から約５年後の09年、日本への多大な貢献が高く評価され、彼女は高位の勲章である旭日大綬章を受章しました。これは、彼女が私たち日本人と最も強い絆で結ばれたアフリカ人だった証しだと言えるでしょう。彼女への叙勲は現地で「マータイ係長」を自任していた私にとっても、この上ない喜びでした。

そして、私のケニアでの任期が終盤に差しかかったある日、その出来事は起きました。彼女は当時の駐ケニア大使に公邸での食事会に招待された際、「大使、この若者はいつも私のために頑張ってくれているのよ！」と言ってくれたのです。一大使館員であった私には生涯忘れ得ぬ思い出です。ただあの時、「一緒に写真を撮ってください」と素直に言えなかったことだけが心残りです。

あれから20年、当時マータイさんが命を削って取り組んだ気候変動問題は、まさに崖っぷちの状況です。昨年は世界平均気温が産業革命前のそれを1.55度上回りました。つまり、私たちは15年に気候変動の国際的な枠組み「パリ協定」で自ら設定した目標（1.5度以下）を単年ながら、わずか10年で破ってしまったのです。

今年は地球環境にとってまさに正念場です。全世界約200カ国が35年までの温室効果ガス削減目標を一斉に定め、11月には国際的な対策などを話し合う国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議（COP30）が史上初めて南米アマゾンを舞台に開催されます。多くの企業や市民を巻き込みながらさまざまな環境保全活動に取り組んできたMOTTAINAIキャンペーンは20周年の節目に、一体どのような進化を遂げていくのでしょうか。

私が今、コンゴ民主共和国政府の政策アドバイザーとして活動しているコンゴ盆地は「地球の肺」と呼ばれています。地球温暖化の原因である二酸化炭素（CO２）を大量に吸収し、野生動植物の貴重な生息地として何万種にも及ぶ遺伝資源を保存し、さらには原生的な自然環境が野生動物と人間との接触を妨げることで、エボラ出血熱など人獣共通感染症の流行リスクの低減にも貢献します。マータイさんの悲願であり、SDGs（持続可能な開発目標）達成の鍵を握るコンゴ盆地の保全に、JICAとMOTTAINAIキャンペーンがコラボして取り組むという野心的なアイデアを最後に披露させていただき、本稿を終えたいと思います。

■大仲幸作（おおなか・こうさく）さん 　1999年、農林水産省入省。北海道森林管理局、在ケニア日本大使館、農水省国際経済課などを経て、2018年から森林・気候変動対策の政策アドバイザー（JICA専門家）としてコンゴ民主共和国環境・持続可能開発省に勤務。