私たち消費者が、食べ物に対する絶対的な安全や、いつでも手に入る安心感を求めてきた結果、
生まれてしまっているフードロスがあります。在庫を切らしてはならないからと多めに仕入れ、
まだまだ賞味期限があるのに、業界内のルールによって結局棄てられてしまう食品。
日本は、年間数千万トン単位で、食べられずに棄てられる食品を生み出しているのです。
お話を聞いたのは、前回に引き続きブラウンシュガーファーストの荻野みどりさん。
以前からフードロス問題に対するアクションを起こしており、もっともフードロスと
向き合ってきた人のひとり。たんに「棄ててはダメ」というだけではない、
荻野さん独自の視点から、問題を考えていきます。
フードロスは、放っておいてもなくなるけれど。
― 今日はフードロスの解決へ向けて、私たちはどんなことを行っていくべきか、
あるいは、ブラウンシュガーファーストとしてはどんな取り組みをしているのかを、
教えてもらいたいと考えています。
荻野 なるほど、わかりました。でも最初にひとつ、断言しておきたいことがあります。
それは、仮に私たちが何もしなくてもフードロスはいずれなくなる、ということです。
― それは、どういうことですか?
荻野 フードロスの多くは、企業や小売店で売れ残ったり賞味期限が切れたりして、
棄てなければならなくなったものです。需要と供給の不一致から生まれたもの。
つまりフードロスは、企業にとって合理的でないもの、コストそのものなんです。
だったら、企業はコストをなくそうとしますよね。実際に各企業はすでに、
そういった取り組みをしています。昔は難しかったかもしれないけれど、最近では
データ等の活用により、生産や仕入れ量を予測し調整することがかなり正確に
できるようになってきました。需要と供給の調整が、しやすくなってきているんです。
ですから、この技術がもっと発達すれば、企業のフードロスはなくなる。
私は確信をもって言うことができます。
― では、私たちは何もしなくてもいいということになるのでしょうか。
荻野 極端にいえば、私たちは何もしなくても、いずれ企業のフードロス問題は
解決すると私は予見しています。でも、それによって見えなくなってしまうことって、
ある。その見えなくなってしまうけど大切なことを伝えていくのが、私の役割なのでは
ないかと最近では考えるようになりました。
― 見えなくなってしまうこととは、どんなことですか?
荻野 コストをなくすために、フードロスをなくす。これは合理的な面からだけで
フードロスを考えていますよね。食べ物に対するリスペクトの気持ちを持とうとか、
その食べ物をつくってくれている人たちのことを考えるという発想はそこにはない。
そういった考えが一切ないままに、合理的かそうでないか、という考えだけで「食」
を考えてはいけない、と思うんです。
― 食と合理はイコールではない?
荻野 そうです。だって、合理的なものだけで食を成り立たせようと思えばただ栄養価が
高ければいいとか、お腹が満たされればいい、という食事でいいことになってしまいますよ。
食べ物を棄ててはいけないのは、コストがかかるからだけではない。食べ物にリスペクトの
心を持たなければならないからであり、それをつくってくれた人への感謝の心を持たなければ
ならないからでもある。食を合理的な面からだけで考えてはいけないのは、食べ物とは
ただ摂取するものなのではなくて、楽しみを生んだり、学びや想像力を与えてくれる、
心の豊かさを育むものでもあるから。
ひとつの面からだけでなく、いろんな視点から考えるということを、忘れてはいけないと、
何度でも世の中に伝えていきたいと思っています。
ものごとを多面的に捉える、オーガニックの視点。
― いろいろな面から考えることが大切なのは、なぜですか?
荻野 ある面で正しいとされることが、別の面で見たら正しくないというのが、
よくあることだからです。何かの問題の被害者は、他の問題では加害者であり得る。
いまの社会でいいとされている行いが、何十年か後の社会を苦しめることに
つながることだってある。そういったいろんな可能性を考えながら、それぞれが
自分で考えたことを実行していかなければならないのではないでしょうか。
― たしかに。何かを考えるのは、自分が、とか現在の、という視点だけで
考えてしまいがちです。
荻野 そうですよね。でも、絶対正義のものなんてないんです。同じように、
絶対悪で全否定していいものもない。物事を一面的にしか捉えられなくなったら、
それは何も考えていないのと同じ。思考停止です。
そうじゃなくて、いろんな人の視点、いろんな時代の視点、いろんな場所からの視点を
考えてみてほしい。それが私の考える「オーガニック」なあり方です。
フードロスについても、おのおのが、いろんな視点から自分なりにどう思うかを
考えていったら。その先に心の豊かさを育む食の未来があると思っています。
*関連読みもの*
・ブラウンシュガーファーストが考える、本来の「オーガニック」の形。
*ご協力いただいたのは*
-
- BROWN SUGAR 1ST. CO.,Ltd.
- 代表取締役社長
荻野 みどりさん
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