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地球の肺を守るために~コンゴ熱帯雨林保護の現場から(第4回)世界最大の熱帯泥炭地の保全に向けて=大仲幸作

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眼下に果てしなく広がるコンゴ盆地の原生熱帯林(泥炭地へは小型飛行機でアクセスする)

 去る11月4日、コンゴ民主共和国の首都キンシャサにおいて、ペンアパラ外務大臣が日本の南大使と共に気候変動対策のための支援(無償資金協力)に関する外交文書に署名しました。日本政府として、コンゴ盆地の泥炭地(でいたんち)において、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの放出・吸収(専門用語で「フラックス」といいます)や気象条件などを観測する設備を建設することを正式に決定したのです。

 先ず「泥炭」の説明から始める必要があるでしょう。「泥炭」とは枯死した植物の遺がいなどが、湿地などのジメジメした環境の下で十分に分解されず堆積することで形成される有機質土壌です。膨大な炭素を含んでいることから、気候変動対策上、最も重要な自然環境の一つであると言われています。この「泥炭地」ですが、開発の過程で乾燥したり、火災が発生したりすると、その炭素が温室効果ガスとなって大気中に大量に放出されることから、「炭素爆弾」とも呼ばれています。

 アフリカ中部に位置する地球最後の秘境「コンゴ盆地」に、世界最大の熱帯泥炭が広がっていることが判明したのは、わずか5年ほど前のこと。英国リーズ大学ほかの研究グループが今年7月に国際的な科学誌「ネイチャー(地球科学)」に掲載した最新の論文では、日本の国土の約半分(17万平方キロメートル)に匹敵する泥炭地に、世界の化石燃料排出の3年分(300億トン)に相当する炭素が蓄えられていることが報告され、世界中を驚かせました。

 そのコンゴ盆地の泥炭地において、最近ある事案が持ち上がりました。コンゴ民主共和国政府が、ロシアのウクライナ侵攻等によって世界のエネルギー需要が高まりを見せる中で、石油・ガス開発を進める計画を発表したのです。そして瞬く間に、先進諸国や環境NGOとの間で激しい議論が巻き起こりました。その論点の一つは、今回の開発が周囲の環境変化に敏感な泥炭地、そこで生活を営む人々に対して、負の影響を及ぼさないよう配慮を徹底できるか、という点でした。最近その存在が明らかとなった同泥炭地には、当然のことながら科学的なデータはほとんど存在しません。そういった状況の中で、同泥炭地を対象とした基礎データの収集・分析の重要性が、折しも、日本政府が冒頭の支援を検討しているタイミングで国際社会に強く認識されることとなりました。

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日本から持ち込んだ採土器で泥炭を採取し、分布やその厚さを計測する(コンゴ民主共和国マイ・ドンベ州にて)

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泥炭地の周辺ではピグミーと呼ばれている人々が森林に依存した生活を営んでいた

 南米アマゾンと共に「地球の肺」と呼ばれるコンゴ盆地では、数十に及ぶ国々、国際機関やNGOなどがコンゴ政府と協力しながら、その保全に取り組んでいます。そんな中、日本政府としてコンゴ盆地の泥炭地観測を、施設の整備や関係者の能力強化など様々な形で支援する用意があると表明したとき、コンゴ環境大臣はもとより、各国大使や国内外の研究者からも評価の声が相次ぎました。この分野の世界的権威は、「オオナカ、今回の日本政府の支援は俺が投稿したネイチャー論文なんかより、もっと意義あることだ!」そうメールで今回の日本の貢献を称え、今後の協力を約束してくれました。

 しかし、コンゴ盆地泥炭に係る我が国の支援活動は、まだ緒に就いたばかり。そして、その内容は、アクセスすら容易でない世界最大の熱帯泥炭地において、最先端の観測施設を建設し、二酸化炭素やメタンなどのフラックスや気象条件等をリアルタイムで計測するという大変野心的なものです。

 欧米諸国ではなく日本に、今回の最重要案件を託したコンゴ民主共和国政府の期待を決して裏切ることはできません。現地の日本人関係者の一人として、日・コンゴ両政府、国内外の研究者、観測機器メーカーから地域住民に至るまで様々な人たちと協力しながら案件の成功に向けてベストを尽くそう、私はそう心に固く誓いました。
(つづく)


大仲幸作(おおなか・こうさく)1999年に農林水産省入省。北海道森林管理局、在ケニア日本大使館、農水省国際経済課、マラウイ共和国環境省、林野庁海外林業協力室などを経て、2018年10月から森林・気候変動対策の政策アドバイザー(JICA専門家)としてコンゴ民主共和国環境省に勤務。

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