MOTTAINAI 事務局便り
2010.03.26
インタビュー:<対談>ワンガリ・マータイさん×山折哲雄さん
◇国連平和大使、ワンガリ・マータイさん×宗教学者・山折哲雄さん
◇宗教と自然の共生を
昨年12月に国連平和大使に就任したノーベル平和賞受賞者、ワンガリ・マータイさん(69)が2月10日から同21日まで来日した。地球環境の保 全に貢献をした人を顕彰する「KYOTO地球環境の殿堂」の第1回受賞者として表彰式に出席するなど、古都・京都は今回の来日の主な訪問地の一つとなっ た。2月15日、京都で宗教学者の山折哲雄さん(78)と宗教や文化と自然とのかかわりについて語り合った。
(司会は川口裕之・毎日新聞水と緑の地球環境 本部長、まとめ・山本建、写真・山田茂雄、特別協力・東日印刷)
◇生活様式に根差した「腹八分」??山折さん
◇人は環境を維持する管理人??マータイさん
◇ガンジーの「非暴力」が世界平和には不可欠??山折さん
◇若い人たちに探究的な対話を生み出したい??マータイさん
川口 日本文化の源泉ともいえる京都での対談となりました。
マータイさん 京都は、私にとてもインスピレーションを与えてくれます。京都を訪れると最初に目に入ってくるのが、緑豊かな山々です。驚くべきこ とは、まちのにぎわいにもかかわらず、周囲の山と森が大変よく守られていることです。京都の森が皆さんにインスピレーションを与え、京都のまちが形成され たのではないかと感じております。
山折さん 京都を取り囲む山々の中に比叡山という約1000メートルの山がございます。これは京都を取り巻いている山の中で一番高い山で、 1000年の間ここは宗教的なセンターでした。そこで多くの修行僧たちが修行をし、まちの人々もその修行僧たちに縁を結んで山に登ることで世俗の人と宗教 者との間の交流がございました。そういうところから、山を守り、森を守るという知恵や工夫が出てきたんだろうと思います。
川口 マータイさんが05年2月に来日し、「もったいない」という言葉に接して5年がたちました。この5年間を振り返り、特に印象に残っていることをお話しください。
マータイさん 「もったいない」という言葉を聞いたときにとても魅力的だと感じたのは、無駄にしないという3R(Reduce、Reuse、 Recycle)だけでなく、「尊重・尊敬する」(Respect)や「感謝」(Gratitude)の気持ちが含まれていたためです。キリスト教徒、と くにアフリカでは神様に「こんなモノを与えてください」とお祈りをすることが習慣になっていますが、実は水や食料、森、きれいな空気などは既に存在してい ます。私たちは「何かをください」と神に祈りをささげるのではなく、逆に今あるものに対して感謝を示すべきなのではないかと思います。
山折さん 私は「もったいない」とともに、3Rの一つであるReduceを表現した大和言葉「腹八分」も取り上げていただけたらと思います。「腹 八分」というのは消費を抑制し、我々の食欲・欲望をコントロールするということです。欲望を100%主張するのではなく、二分つまり5分の1は禁欲してそ れを欲望の抑制、消費の抑制に役立てるとともに、できればその抑制したものを他の人に分け与えるという意味が含まれています。私は、「もったいない」や 「腹八分」といった言葉や考え方は森や林の中にお寺や神社を建て、そこで人々が修行をしたり学問を学んだり生活をしたりする生活様式に根差していると思い ます。自然を大事にすることによって、食べるものや生きるために必要なものを自然から恵まれるという受動的なライフスタイルが醸成されたのではないでしょ うか。
マータイさん 私が生まれ育った社会では、キリスト教の宣教師がやってきて地元の人々に広めました。しかし、そこに住んでいた部族の人々は自然と の共生の概念に基づいた本来の宗教を持っていたわけです。一例を挙げますと、ケニア山というケニアで一番高い山がありますが、地元の人々は神聖な山であ り、神がそこに宿っていると考えています。ですから、川が流れ、雨が降りそして日々の暮らしが成り立っているということが、すべてその山の恵みであるとい うことになります。日本における仏教も同様に自然と人々との距離が近いのだろうと思いますが、一方で、キリスト教では自然は収奪するもの、利用するものと いう考え方に立ってきたと思います。
山折さん アフリカの方々の伝統的な考え方や感じ方と、日本列島の我々が何百年もの間考え続け、感じ続けてきたこととはよく似ていると思います。 ただ、アフリカにおけるキリスト教の場合とは異なり、日本では、インドのブッダを中心とする仏教と日本古来の神道が自然の中で手を結び、うまく共存の関 係、つまり共生の関係を形成することができた。それが日本の文化の非常に重要な特徴の一つだと思います。地球環境問題において自然や環境という言葉を使う のですが、この言葉に対する西欧社会の考え方と、インドや日本、中国や伝統的なアフリカの文化の考え方は違うと思います。
マータイさん 西欧的な考え方は、消費主義に基づく欲望に大きく影響されていると思います。産業革命を発端として西欧的な考え方が世界中に広が り、その考え方に立つ人たちはあたかも世界が無限の資源を抱え、それは自由にできるものであるかのような錯覚を抱いてきたわけです。聖書が欧米の精神の考 え方の源になっていますが、そこには神がこの地をおつくりになり、そこを支配すべく人を置かれた、つくられたというふうに書かれており、「支配する」とい う言葉をはっきりと使っているわけです。これに対し、自然環境を守ろうという運動は、この本来的な聖書の概念に対して疑問を投げかける動きであったのだろ うと思います。つまり、人はこの世界の支配者や征服者ではなく、この世界や環境を維持するための管理人として存在しているのだと。西欧においては、新たな る認識の発見です。
山折さん 聖書の話が出てきたので申し上げますが、旧約聖書に出てくる「ノアの方舟」の物語に代表されるように、西欧社会の歴史がこの生き残りの 物語、戦略から生み出されていると思います。哲学も宗教も経済も政府も社会のあり方も全部、いかにして危機に際して人間は生き残ることができるかという考 えに基づいている。それが今日の環境問題にまで非常に強い影響を与えているのではないか。「持続可能な発展」という言葉にも、いかにして生き残るために環 境を操作したり管理したりすれば良いのかという物の考え方が表れている。環境問題を扱う場合には、勝ち負けや善悪ではなく、自然や環境に対する二つの考え 方があるということを認めるところから討論を始める必要があるのではないでしょうか。
マータイさん 非常に面白いアプローチだと思います。根本的な価値観の違いについてどう対応していくかということは、交渉の場においてはとても難しい問題です。先日、コペンハーゲンで行われた国連気候変動枠組み条約第15回締約国
会議(COP15)でも、そういった価値観の問題があるにもかかわらず、それを交渉のテーブルに出そうとさえしませんでした。私はプロテスタントか らカトリックに改宗しましたが、その際、「他の宗派の人が書いたものを読んだり、他の宗派の人が作った歌を歌ってはいけない」と、厳しく教えられました。 そうなると、例えばヒンズー教やイスラム教といった異なる宗教を持つ人たちを理解しようとすること自体が罪であるということになる。あちらとこちらという ように最初から分けてしまえば、紛争の種はすでにまかれたようなものです。紛争を防ぐには向こう側に目を向け、行ってみて、理解するのが第一歩であり、そ れが我々に課せられたチャレンジでもあると思うのですが、どう進めていったらいいか残念ながら私はまだ良いアイデアが浮かびません。
山折さん 現実はそんなに甘いものではないと思います。いくつかの国際会議に出た経験もございますが、最後は「お互いに意見が違うね」ということ を合意しあって終わるだけで、疲労困憊(こんぱい)の気分だけが残ります。それにもかかわらず、私には一つの経験と一つのアイデアがございます。
5年前に国連教育科学文化機関(ユネスコ)とバチカンの共催で、宗教間・文化間の対話や協力を促進するための国際会議がパリのユネスコ本部で開か れ、私は日本・アジアの宗教について報告するため出席しました。会議の内容については申しませんが、ユネスコ本部の地下にある大会議場正面の大きな壁面 に、インド独立の父、マハトマ・ガンジーが糸車を巻いている絵、つまり非暴力の精神を象徴する絵が描かれているのが印象的でした。
「There is enough for everybody’s need but not enough for everybody’s greed.」
これはガンジーの有名な言葉で、私なりに日本語に訳しますと「足るを知る時この世は天国。足るを知らざる時この世は地獄」となります。日本人は 「足るを知る」という言葉を最近重要な価値観として取り上げるようになりましたが、その日本人の伝統的な考え方と、ガンジーが使った「enough」とい う言葉、「need」「greed」の対照は根底のところで共通しているように思います。私はガンジーの思想に学ぼうとしてきた人間の一人でありますし、 ガンジーの非暴力の思想がこれからの世界平和を実現する上で欠かすことのできない道標だと思っています。そのガンジーの考え方や生き方を、今日のいろんな 人が積極的に採用しようとしており、バチカンすらそれを受け入れている。そこに望みを持つことができるのではないかと思っております。
マータイさん 私は06年にインディラ・ガンジー平和賞=注1=をいただき、そのインドの指導者であったマハトマ・ガンジーという方を心より称賛しております。人々の生き方そのものを大きく変えた偉大なる人物であると思います。
川口 アフリカは長い間の植民地支配により固有の価値観や伝統的な宗教を喪失しましたが、こうしたものをどのように取り戻していけばいいのでしょうか。
マータイさん 私がグリーンベルトムーブメントという植林活動を始めたそもそものきっかけは、ケニアの人々に自然との共生というアフリカの伝統的 な考え方を再発見してほしい、その手助けをしたいと思ったからです。最近、若い人たちに私たちが行ってきたことを研究対象として考え続けてもらうための研 究所を設立したいと考え、ナイロビ大学からキャンパスの一部を提供してもらい、「ワンガリ・マータイ平和環境研究所」=注2=を作ることになりました。具 体的には、私たちがこれまで失ってきた伝統的な価値観をもう一度見直したり、逆に外から入ってきて我々を脆弱(ぜいじゃく)にし、屈辱感を与え、我々から 搾取することを容易にした価値観を改めたりする研究に取り組みます。この研究所において探究的な対話というものが生まれてくることを望んでおります。
山折さん 素晴らしい計画だと思います。人類は平和をどのようにして実現しようとし、それを戦争はいかに妨げてきたのか。日本の歴史を振り返って みますと、長期にわたり平和な時代が2度ございました。平安時代(794?1185年)と江戸時代(1603?1868年)です。この合わせて600年以 上にわたる平和が、なぜ実現したのか。私は、日本人の伝統的な価値観がさまざまに影響を与え、秩序ある平和な社会をつくったのではないかと思います。そし て、「もったいない」という考え方が生み出される背景に、この長期にわたる平和な時代があったのだということをお伝えし、研究所に集う皆さんと一緒に討議 をしてみたいと思います。
==============
※注1
1984年に暗殺されたインドのインディラ・ガンジー元首相を記念するために、86年につくられた国際平和賞。政治家や学者、経済人等、国際平和や人権保護、新しい世界経済の秩序作りに貢献した人に贈られる。賞金は250万ルピー(約490万円)。
※注2
天然資源の持続可能な管理と気候変動に対する地域の適応実践について学際的な研究調査を行う中核的研究拠点として、ケニアの首都ナイロビにあるナ イロビ大学キャンパス内に11年開設される予定。学術研究施設、大講堂、図書館のほか、資源を大切にする心を学ぶMOTTAINAI学科を開講する。
==============
![]()
■人物略歴
◇やまおり・てつお
1931年、米サンフランシスコ生まれ。国立歴史民俗博物館教授、白鳳女子短大学長、国際日本文化研究センター所長など歴任。「近代日本人の宗教意識」など著書多数。近著に「17歳からの死生観?高校生との問答集」(毎日新聞社)。
==============
■人物略歴
◇ワンガリ・マータイ
1940年ケニア生まれ。米国に留学後、71年にナイロビ大で博士号。77年にグリーンベルトムーブメントを創設、国会議員、副環境相などを歴任。04年に環境分野で初めてノーベル平和賞を受賞、09年に国連平和大使に就任したほか、旭日大綬章受章。
| 2013.05 |
|---|
| 日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2 | 3 | 4 | |||
| 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
| 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
| 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
| 26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |






当サイトへのリンクバナーです。